SEOツール大手のAhrefsが、自社サイトのAI検索トラフィックとコンバージョンを計測・公開しました。 AI検索経由の訪問は全体のわずか0.5%でしたが、サインアップの12.1%を占めており、従来のGoogle検索と比較して23倍のCVR効率を記録しています。 計測期間は2024年8月から2025年5月の10か月間です。
事例の概要
Ahrefsはシンガポールに本社を置くSEOツールのSaaS企業で、従業員数は約200名です。 月額99ドルからのサブスクリプションモデルで、主に法人のマーケティング担当者やSEOコンサルタントが利用しています。
この分析の特徴は、Ahrefsが自社の分析基盤を使って計測した一次データである点です。 GA4ではなく独自のWeb分析ツールを使用しており、AI検索プラットフォームからのリファラーを個別に識別して集計しています(出典:Ahrefs Blog, 2025)。
計測対象となったAI検索プラットフォームには、ChatGPT、Perplexity、Claude、Gemini、Copilotなどが含まれます。 これらを「AI referral」として一括で集計し、Google Organic検索と比較しました。
実施した施策
この事例はGEO施策の結果ではなく、計測と分析の結果です。 Ahrefsが行ったのは以下の3点です。
- AI検索プラットフォームからのリファラーを個別識別する分析環境の構築
- トラフィック量だけでなく、サインアップ(有料トライアル開始)までのコンバージョンを追跡
- AI検索経由ユーザーの滞在時間・ページ閲覧数などエンゲージメント指標の比較
その結果として、以下の主要な数値が明らかになりました。
| 指標 | AI検索経由 | Google Organic |
|---|---|---|
| トラフィック比率 | 0.5% | 大多数 |
| サインアップ比率 | 12.1% | — |
| CVR効率(相対) | 23倍 | 1倍(基準) |
| 平均滞在時間 | +68%長い | 基準 |
AI検索経由のユーザーは滞在時間が68%長く、より多くのページを閲覧する傾向が見られました。 これは、AI検索が具体的な課題を持つユーザーを送客しているためと考えられます。
数字の読み方
23倍のCVR効率は印象的な数字ですが、いくつかの前提条件を理解する必要があります。
まず、Ahrefsは月額99ドルからのB2B SaaSツールです。 AI検索で「SEOツール おすすめ」と検索するユーザーは、すでにツール導入の意思決定に近い段階にあります。 購買ファネルの下部にいるユーザーが集中しているため、CVRが高くなるのは構造的に当然です。
次に、AI検索経由のトラフィックは全体の0.5%であり、絶対数は限られています。 統計的な信頼性の観点では、母数が小さいほど数値のブレが大きくなります。 仮にAI検索トラフィックが10倍に増えた場合、CVRが同水準を維持するかは不明です。
また、Ahrefsは自社の分析ツールを使って計測しています。 GA4とは集計ロジックが異なる可能性があり、他社が同じ方法で追試するのは困難です。
さらに、Ahrefsはもともと大量のSEOコンテンツを保有しており、AI検索に引用されやすい条件が整っています。 SEOブログの記事数は数千に及び、「E-E-A-T」の観点でも強い立場にあります。 この前提を持たない企業が同じ結果を期待するのは現実的ではありません。
日本のB2B SaaS企業で再現する場合の設計
Ahrefsの事例から日本のB2B SaaS企業が得るべき教訓は、「AI検索トラフィックを分離して計測する仕組みを作る」ことです。 CVRの絶対値を真似ることではありません。
ステップ1:GA4でAIリファラーを分離する
GA4のカスタムチャネルグループで、以下のリファラーを「AI Search」として分類します。
chatgpt.com/chat.openai.comperplexity.aiclaude.aigemini.google.comcopilot.microsoft.com
GA4の管理画面で「カスタムチャネルグループ」を作成し、ソース条件にこれらのドメインを正規表現で指定します。 設定手順の詳細は「AI検索からの流入を計測する方法」を参照してください。
ステップ2:CVイベントとの紐づけ
チャネルグループを作成するだけでは不十分です。 「無料トライアル開始」「資料請求」「問い合わせ送信」などのCVイベントをGA4のキーイベントとして設定し、チャネル別のCV数を確認できるようにします。
B2B SaaSであれば、以下のイベントを最低限追跡すべきです。
- トライアル開始(sign_up)
- 資料ダウンロード(file_download)
- 問い合わせフォーム送信(generate_lead)
- 料金ページ閲覧(view_item)
ステップ3:エンゲージメント指標の比較
CVだけでなく、AI検索経由ユーザーのエンゲージメントも追跡します。 GA4の「エンゲージメント率」「セッションあたりのページ数」「平均エンゲージメント時間」をチャネル別に比較し、Ahrefsと同様のパターンが自社にもあるかを確認します。
ステップ4:3か月間のベースラインを確立する
GA4の設定後、最低3か月間はデータを蓄積してベースラインを確立します。 AI検索トラフィックの絶対量が少ない場合、月次での変動が大きくなるため、週次ではなく月次・四半期で評価するのが適切です。
ベースラインが確立できたら、GEO施策(構造化データの実装、FAQ構造の追加、引用されやすいコンテンツの作成)を開始し、施策前後での変化を計測します。
日本市場固有の考慮点
日本語のAI検索利用率は英語圏と比較してまだ低い段階です。 そのため、AI検索経由のトラフィック量は英語圏の事例より少なくなることを前提にしてください。
一方で、日本語コンテンツの競合は英語圏より少ないため、質の高いコンテンツを用意すれば引用される確率は高くなります。 特に、日本語で信頼性の高い一次情報を発信しているB2B SaaSサイトは、まだ少数です。
よくある質問
Q1. AI検索トラフィックが全体の0.5%しかないなら、対策する意味はありますか
トラフィック比率ではなくCV貢献で評価すべきです。 Ahrefsの場合、0.5%のトラフィックが12.1%のサインアップを生んでいます。 AI検索の利用率は年々増加しており、早期に計測基盤を整えておくことで、成長トレンドを正確に把握できます。
Q2. Ahrefsと同じ23倍のCVR効率を自社でも期待できますか
そのまま期待するのは危険です。 Ahrefsは月額99ドル以上のB2B SaaSであり、AI検索ユーザーの購買意欲が高い商材です。 低単価の商材や、情報収集段階のユーザーが多い業種では、CVR効率の差は小さくなります。 まず自社で計測し、自社固有のベンチマークを作ることが重要です。
Q3. GA4以外の計測方法はありますか
サーバーログでリファラーを直接確認する方法があります。 GA4のJavaScript計測ではリファラーが取得できないケースがあるため、サーバーログとの突合でより正確な数値を得られます。 また、Ahrefsのように自社でアクセス解析ツールを運用している場合はそちらを活用できます。
まとめ
Ahrefsの事例は、AI検索トラフィックの「量」ではなく「質」を定量的に示した貴重なデータです。 トラフィック比率0.5%に対してサインアップ12.1%、CVR効率23倍という数字は、AI検索が高い購買意欲を持つユーザーを送客していることを示唆しています。
ただし、B2B SaaSの高単価商材という条件、自社分析ツールによる計測、そしてSEO領域での圧倒的なコンテンツ量という前提があります。 数字をそのまま他業種に適用することはできません。
日本のB2B SaaS企業がまず取り組むべきは、GA4でAI検索リファラーを分離し、自社のAI検索CVRを計測する体制の構築です。 ベースラインを持つことで、今後のGEO施策の効果を正しく評価できるようになります。